重厚な人間ドラマ

「聞こえるか？　私の名は蔦谷一行(いっこう)だ」
外から渋い声が聞こえた。
「こんな事をしてもご家族が不幸になるだけだぞ。例の事件は知っているか？」
巷で話題の『天空のアジト湯けむり殺人』の事か？
「先ほど犯人を捕まえた。素っ裸の密航者だったよ」
あれは迷宮入り寸前だったはず。
「幾度も体験しているが、手錠をかける瞬間は至高だな」
敏腕刑事か。
「仲間曰く『後光が射していた』そうだ」
神か。
「思わず六甲おろしを熱唱したさ」
なんでやねん。
「こんな私でも親の七光りなのだよ」
コネ！
「……何だと？　ハチ公がタピオカ屋を襲っている？」
マジ？
「すぐ現場に急行する！」
俺も見に行きてぇ！

こうして渋谷公会堂立てこもり事件は幕を閉じた。
あ、俺は犯人ではない。
引きこもり部屋からテレビ中継を見ていただけの中学生。
この事件のおかげで久々に外の光を浴びた。
渋谷は眩い。
明日から登校しよう。