古典教師の憎悪

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 臆病なネズミのような老人。それが高校の古典教師だった。教師は丁寧に板書し、細やかに作者の心情を説明したが、それを聞くものは誰もおらず、みんな好き勝手なグループで好き勝手なことをして過ごしていた。教師が一言も注意をしなかったからだ。
 そんな「存在感のない教師」のことを、僕たちは毎年、嫌でも思い出す。

 最後の授業の日。これまで通り授業を終えた古典教師は静かに教室を出ていった。その後、いつものように黒板を消そうと、黒板に近づいた日直の女生徒が「ヒッ」と息を呑んだ。
 黒板一杯に、これまで見たこともないほど乱暴な書体で「憎悪」と書き残されていたからだ。誰一人、それが書かれたことに気づかなかった。女生徒は、
「こんなの消せない」
と泣き始めた。
 古典教師はそのまま失踪した。

 それから毎年。この最後の授業が行われた日にクラスの誰かが不慮の死を遂げる。去年までで5人。今年は僕かもしれない。
ホラー
公開:19/11/13 14:47
更新:19/11/13 15:24

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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