通夜の朝

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「今からお別れしましょうよ」
聡美さんから電話をもらったのは明け方のことだった。眠れないのは私も同じ。先生のことばかり考えていた。
凍てつく朝の商店街に歩く人はまだなく、喪服の私とカラスが一羽、互いの足音がきこえるほどの静けさの中を、私は先生が眠る聡美さんの店に向かった。
プランターのような一軒家をリノベーションした店は「鹿の背中」といい、ジビエ料理が人気らしい。にんじんみたいなあたたかい灯りがもれる窓。ダクトからは甘いソースの匂いがして、この店に先生の亡骸があるなんて不思議に思える。
カランコロンカラン。祭壇には果物と共に、赤ワインソースやベリーソース、ポトフやパイや卵料理が花のように飾られていた。
「ウチは何をしとんのやろな」
聡美さんの言葉に笑った。
「あの人のためにお店やってたようなもんやから」
「一度食べてみたかったんです」
「食べ。食べたら出てってや。これはアンタとの別れや」
公開:20/01/25 23:08

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