紡香師（ほうこうし）弐～パフューム

「おいイヌ。イヌスケ～！」
またかよ……。覆面にはたきを装備したまま玄関へ。
「乾健介（いぬいけんすけ）！介助犬みたいに言わないで下さい」
「ストーカーよりマシだろ。おら荷物運べイヌスケ」
大学でもダチに呼ばれるが、この人は悪意がある。すれ違った匂いを追っ掛けて出会った『紡香堂』の店主。本人にバレてたとも知らず、（本人とも知らなかったが）咄嗟にバイト志望なんて吹いたのを、俺は猛烈に後悔中だ。
「うわ重てぇ。何すかこれ。パフーム？」
「知らねぇ横文字、無理に使うな犬頭」
「大学生っすよ。俺だって多少……」
「パフューム・パルファン・トワレ・コロンの違いは？」
「匂いの濃さ。パフームが一番」
「それぞれ賦香率（ふこうりつ）何％だ」
「……五分五分？」
溜め息つかれた。
「荷物持ちに専念しろ」
「こういう香水の話も覚えます」
「常用漢字から覚えろ。『線香』って書いてあるだろ！」
頭をはたかれた。