紡香師(ほうこうし)壱~初聞

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交差点で、良い感じの匂いにすれ違った。
香水かな?渡り切ったら忘れそうな匂いだったから、もう一足で反転して追っ掛けた。
駅前の再開発ビルも、いつ見ても昭和な中店通りも越して、裏道のそのまた外れで紛れた。住宅街とホテル街の隙間、閑静より閑散に近い道。
鼻で辿るのに懸命で、景色どころか、肝心の匂いの主も確かめてない。これだから、大学でダチに『犬』とか言われんだよ……。
しょぼんと項垂れてたら、カラカラ引き戸の音がした。
「うちに何か用か、ガキ」
機嫌悪そうな声が、反射で謝るには高かった。
俺をガキ呼ばわりした奴は、俺よりガキだった。小学生か、せいぜい中坊。今時珍しい着物に前掛け。
「……表の、張り紙見て。バイト志望」
咄嗟に目に入った。『紡香堂』――お香の店っぽい。
「お前、香なんて聞くの?」
「聞く?耳は良い方っすけど」
「……じゃ、ひとまず中来い、ストーカー」
笑った声が、ふわんと匂った。
ファンタジー
公開:20/01/26 20:27
お香を焚き、香りを嗅ぐ事を、 香道では『聞く』と表します。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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