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江陵は揚子江中流の河港都市である。南宋の頃、ここに窯業を営む男がいた。名を手張という。かつては郷試に挑戦する程度の教養人であったが、夢破れ、この地にて生計のためにやむなく日々を過ごしていた。

窯の火入れをした後、手持ち無沙汰を慰むため詩作を常とした。もとより才能ある者とて、街なかの同好の士に披露するも、とくに誰か他者の作に批評をつけるものでもなく、ただただ自作への評判を聞いて悦に入っていた。

おのが作が話題になり口々に褒め称えられるのは望んだが、自ら進んで他者の作を論ずることをせず、次第に誰からも相手にされなくなっていったのは想像に難くない。

やがて窯にこもりきりになり、街なかに出ることをやめてしまった。

男の焼いたものを買った人々から妙な噂が流れたのはその頃である。

夜な夜な陶磁器がしゃべるという。

「もっとほめろぉーー」

世の人々は男をこう呼んだ。

かまってちゃん、と。
ファンタジー
公開:20/01/25 18:00
更新:20/01/25 20:10
277 郷試は科挙のひとつ 研鑽とはお互いの交流 窯手張=かまってちゃん 構ってちゃん オオカミの自信作

武蔵の国のオオカミ( ここ、ツイッタランド、タイッツー )

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