わらわやみ
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病院から帰ると、咳が部屋にしゃがんでいた。
マスクのまま近付く。風圧に押されて隅へ逃げた咳は、ケホッとむせて、上目遣いに俺を見た。
『寄るな』
がらがら声だが丈は小さい。ひき始めだからな。俺は咳を生んだのが今朝の俺である事を知っていたが、咳には俺が親である事は解らないらしい。
「病院で、薬もらったか…ゲホッ」
マスク越しのトローチの臭いが嫌なのか、咳はケンケン鳴いて逆へ逃げた。むき出しの膝が寒そうで、テーブルのリモコンを取る。
エアコンの作動音にコホと息が緩み、すぐ眉を寄せた。
『乾かすな。喉に悪い』
中身がウィルスのくせに、なぜ宿主を気遣う。加湿器のスイッチも入れる。温風にやや浮いた咳は、じきに湿気って床へ着地。首根っこを摘まんでソファに乗せると、丸まってスカスカ寝息を立てた。不活性化して透けていく咳を、しみじみ見送る。
「……ックション!」
ソファに転がった鼻水が、スンと鼻をすすった。
マスクのまま近付く。風圧に押されて隅へ逃げた咳は、ケホッとむせて、上目遣いに俺を見た。
『寄るな』
がらがら声だが丈は小さい。ひき始めだからな。俺は咳を生んだのが今朝の俺である事を知っていたが、咳には俺が親である事は解らないらしい。
「病院で、薬もらったか…ゲホッ」
マスク越しのトローチの臭いが嫌なのか、咳はケンケン鳴いて逆へ逃げた。むき出しの膝が寒そうで、テーブルのリモコンを取る。
エアコンの作動音にコホと息が緩み、すぐ眉を寄せた。
『乾かすな。喉に悪い』
中身がウィルスのくせに、なぜ宿主を気遣う。加湿器のスイッチも入れる。温風にやや浮いた咳は、じきに湿気って床へ着地。首根っこを摘まんでソファに乗せると、丸まってスカスカ寝息を立てた。不活性化して透けていく咳を、しみじみ見送る。
「……ックション!」
ソファに転がった鼻水が、スンと鼻をすすった。
ファンタジー
公開:20/01/23 19:30
創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞
いつも本当にありがとうございます!
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