俺は君の居ない部屋で君を待つ

せめてもうちょっと、男前に映ったやつにしてくれよ。
本棚の上に置きっ放しの、十何年前の写真。夏はデコがはげるから嫌なんだよな。変に繋がった下がり眉みたいで、いかにもおっさんだろ。棚板に前肢を掛けて、写真立てを鼻で押す。掃除嫌いのわりに、ホコリの臭いがない。つい昨日飾ったかと思うくらい。
ガラスに湿った鼻スタンプが付いた。肢じゃ無理だから、拭くのは諦めて、よっこらせと床に降りる。
若い頃はもっとフサフサだったんだけど。こんなの運動のうちに入らなかったんだけどな。隅っこの座椅子に伏せる。君がくれた特等席。オンボロですごく古いんだけど、寝心地は良いから。
何年経ったかな。君はずっと出掛けてて、でも、明日帰って来るかも知れなくて。……いややっぱり、帰って来ないのかも知れなくて。
ただ、部屋にいると、時々君を感じる。まるで写真立ての向こう側みたいに。
もしかしたら、君もそうやって俺を見てるのかな。