羽があれば飛べるでしょうか

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「羽があれば飛べるでしょうか」
「あんたは飛べないよ。だって下手くそだもの」
 いい歳こいてなんて夢を見ているんだ。そんな腹立ちまぎれに切り捨てた。
 嘘は言っていない。街一番のバレエ教室に何年も通っているくせに、初心者向けクラスへの転籍を勧められるほどの下手くそだった。
 それに引き換え私は違う。私が一番上手に踊る。すなわち、この街で一番、私が綺麗。
 本当は忘れてしまいたい。
 伸び悩んでいるくせに鼻高々に、練習から手を抜いていた日々なんて。
 いま。あんたは跳んでいた。国の威信すら背負う舞台の上で。静から動へ、動から静へ。すまし顔だけど、私は知っている。その所作のなんと苦しいことか。
 せめてあんたは、どこまでも飛んでいってくれと祈る。柔らかな座席から手をあわせる。
 私がその上に立つことはもう二度とない。努力を重ね損なった私に羽はなく、バレエ界という小さな手のひらから零れ落ちた。
その他
公開:20/01/24 23:46
お題 羽があれば飛べるでしょうか〜 本当は忘れてしまいたい〜 手のひらから零れ落ちた

ぴろしき

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 @yosisige

上記アカウントにて駄文を垂れ流しているインターネットポエム揚げパン。
にほんご、すき。

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