天赦日の殺人者

明日は天赦日と聞き、人を殺してみようと思い立った。
天がすべての罪を赦し給う、日本の暦で最上の吉日。特に物事を新しく始めるには、絶好の機会だという。
しいて殺人に限定する必要はないが、ちょっと今から銀行強盗とか、国会議事堂にテロとか、分かり易く大々的な犯罪を企てるには時間が足りないし、店内禁止のローラーシューズで走り回る子供にぶつかり、半分とけたアイスと顔面衝突させても普通に許されそうだし、駐車場前の道路に飛び出して『僕は死にません』とやる相手もいないし、というかあっさり轢かれそうだし。逆に警察とカーチェイスを繰り広げる運転技術も知識も車も、ついでに免許も持っていない。つまるところ、すぐ実行可能で罪として成立する選択肢だったに過ぎない。
さて誰を殺そう、と見渡すも、これぞという標的がいない。殺すに値する人間とは、そもそも何ぞや？
殺す前に、まず生まなければ。手つかずの画面を前に頭を抱える。