夕暮れ散歩

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夕暮れに照らされながら立ちつくす。沈みかけの夕日が目の前に立つ彼女の陰影を形作った。彼女が繰り返す。
「私ね、結婚するのよ」
彼女は硝子細工のような微笑みを浮かべていた。ねえ、あなた。
「私を連れて逃げ出してくれるかしら」
そう呟くように零れ落ちた言葉は諦めの色を多分に含んでいた。そっと目線を下に落とす。彼女は淡い桃色をした唇を動かす。
「最後に散歩をしましょうか」
彼女は軽やかに歩を進めた。数歩離れてついていく。誰ともすれ違うこともなく、会話を交わすこともなく歩いた。斜め後ろから彼女を伺うけれど、彼女はただ真っ直ぐ前を見据えている。
何分歩いただろう、彼女が唐突に口を開く。
「ねえ、あなた」
──これで、さよならね。
ぶわりと突風が吹く。咄嗟に目を瞑り、開いた時。彼女は、そこから消えていた。辺りを見渡しても、誰もいない。誰も、いなかった。
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公開:20/01/21 21:16

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