露紐師

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今日はいい日だと思った。目覚めた瞬間から、そんな気がしたんだ。夜が朝に変わる、山が赤く焼ける時。

ぼんやり霧のせいで視界が霞む中、寝床から起き出して上に向かう。

じわじわ葉っぱに現れる朝露。まってましたと思わず小声で呟く。ここからが僕の仕事。

出来たばかりの朝露をすくい、丁寧に細く細く縒っていく。触りすぎてもいけない。

縒りあげたそれは純の透明さと柔らかさを持った、しかし強い一本の紐になる。

僕はこの紐を売って暮らしてる。

ご要望とあらば露紐をレースに編んだり、髪留めを作ったり。手先は器用なんだ。人を選ばず長く輝きを失わない小物は、贈り物にも良く選んでもらえる。評判は上々かな。

今日はいい日。予感は当たった。彩雲だ。2回目にすくった露を彩雲にさらす。急いでそれを縒ると、うっすら七色の紐ができた。

これは特別、とポケットにしまう。たまにはまだ寝ている妻に、何か贈り物を作ろう。
公開:20/01/21 21:11

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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