陽だまりの息子

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「折り入って相談がある」
保育園からの帰り、5才の息子が、どこで覚えたセリフか、私をそんな言葉で喫茶店に誘った。
その店の名物は左官職人だった店主が作る漆喰ケーキだという。私はストロベリー漆喰とセメントココア。息子は姫路城パフェと瓦ジュースを注文した。
暖冬とはいえまだまだ寒い北関東。私はトイレに急いだ。
暖かい便座から離れたくはなかったけれど、姫路城パフェの仕上がりを見たくて私は席に戻った。
すると息子の姿がない。注文の品はすでに並んでいて、瓦ジュースだけが飲み干されている。
店内には初老の店主と、窓辺の席におじいさんがひとり。私は保湿クリームを塗りながら、息子が戻るのを待った。
アイスクリームで作られた姫路城がぽとりぽとりと溶けて、今や落城寸前だ。
「あの、息子はどこへ?」
店主に尋ねると、不思議そうな顔で窓辺のおじいさんを指差す。
私はその乾燥した息子に保湿クリームを塗りたくった。
公開:20/01/21 15:24

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