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「日が長くなったなあ爺ちゃん」
「そうじゃのう孫よ」
「でもなんか、春めいてきてから月を見ていない気がする…今夜あたりは出るかな」
「どうかのう、こりゃ朧夜かもしれんの」
「うん、朧月夜ってこと?」
「そっちの朧夜ではない。月を忘れた方の朧夜じゃ。孫よ、この世に空が生まれて何年経っとると思う?儂だってこの歳で記憶が抜け落ちる事もある。空なら尚の事記憶も朧気になり、月の存在が抜け落ちる事もあるじゃろ、特にこの時期はな。"記憶が朧になって月が抜けた夜”だから"朧夜”と書くんじゃ」
「ふーん、そうなんだ……こりゃ爺ちゃんもいよいよ…」
「いよいよ何じゃ?」
「い、いや何でもない……勉強になったよ」

「爺ちゃん!東にも西にも月が…」
「ほう…だから言ったろう、空が生まれて何年経っとると思う?儂だってさっき食ったのを忘れて夕飯を二回食おうとしたんじゃ。空だって忘れて月を二回出す事もあるじゃろ」
ファンタジー
公開:20/01/23 09:42

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