幻想世界#1 守る人

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気が付けば走っていた。この暗闇と赤い空の世界を。息を吸って、吐く。痛む気管支、破裂しそうな鼓動、熱い血流--それらは全て、私の体で起こっている事なのに、どこか他人事の様にも感じていた。真剣に、駆けた事など無かったのだ、あの世界にあっては。私は今、ただ。あの世界から逃げていた。フラクタルの如く続く平和。作り物--箱庭。そこから逃げる事、それは愚かと言えた。しかし私は、そこにいる事をやめた。荒廃と混沌、そして自由の世界に在る。一歩--足裏に感じる土の柔らかさ。遠くから、潮の香り。冷たい大気の流れ。何故か--涙が溢れた。涙を風が拭う。心に湧き出るこの感情は、紛れもなく、懐かしさ。それらは、生まれて初めて感じる物なのに。
私は、間も無く終わる。この穢れなき精霊を、箱庭の手が届かぬ場所へ、隠した後に。さあ、封印を始めよう。精霊が次に目覚めるのは、私が--皆が滅んだ時。この世界が聖なる光に、満ちた時。
ファンタジー
公開:20/01/23 00:08
幻想世界シリーズ

柊七十七

WEB小説執筆遍歴: エブリスタ(お休み中)→時空物語(サイト閉鎖)→ショートショートガーデン 現在に至る。

詩と、短編書きです。

#付きタイトル作品
幻想世界シリーズ: ひとつひとつは独立の世界です。日常のふとした思いや、ある日見た印象的な夢など。
ヒトのココロの暗い部分シリーズ: 暗い詩。

#無しタイトル作品
コンテスト参加用。

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