雲通路(くものかよひぢ)
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茜に染まる雲海に、紅蓮に燃える舟が一艘。
めらめら炎を噴いて、本当に焼けているのかと思った。慌てて風を駆れば、船を満たして溢れるのは、今を盛りと色付いた紅葉だった。
「貴方……!」
釣り竿を投げ出し、倒れた背中。積もった紅が血にも見えた。船縁からはみ出した袖は、だらりと海に沈んでいた。
「しっかりして、貴方!」
「釣れない」
不貞た溜め息が、うつ伏せの頭から湧く。しぶしぶ引き上げた腕は霜が降り、爪もすっかり蒼褪めている。
「雪は、時季ではないわ」
一体、何百枚集めたのか。のそりと起こす上体の、髪から、襟から、裾の間から紅が散る。
「雪はもういい」
眉を顰め、それからはたと気付いた顔で、じっと私を見た。
「花びらじゃないから、これも駄目か?」
船底に溜まった紅葉を掃ける。私の足元から舟へ、緋毛氈でも敷いた具合に道が出来た。
「……いいえ」
直接飛べたけれど、浮き沈む紅を渡って、隣に座った。
めらめら炎を噴いて、本当に焼けているのかと思った。慌てて風を駆れば、船を満たして溢れるのは、今を盛りと色付いた紅葉だった。
「貴方……!」
釣り竿を投げ出し、倒れた背中。積もった紅が血にも見えた。船縁からはみ出した袖は、だらりと海に沈んでいた。
「しっかりして、貴方!」
「釣れない」
不貞た溜め息が、うつ伏せの頭から湧く。しぶしぶ引き上げた腕は霜が降り、爪もすっかり蒼褪めている。
「雪は、時季ではないわ」
一体、何百枚集めたのか。のそりと起こす上体の、髪から、襟から、裾の間から紅が散る。
「雪はもういい」
眉を顰め、それからはたと気付いた顔で、じっと私を見た。
「花びらじゃないから、これも駄目か?」
船底に溜まった紅葉を掃ける。私の足元から舟へ、緋毛氈でも敷いた具合に道が出来た。
「……いいえ」
直接飛べたけれど、浮き沈む紅を渡って、隣に座った。
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公開:20/01/20 08:32
天釣舟③
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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