夢通時(ゆめのかよひぢ)
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吐息も凍る夜だった。
円月が舟の高さに浮かび、空はいつもより明るい。糸を掛けたら引き寄せられそうで、腕を伸ばして、届かないのを実感してやめた。
海に竿を垂れたまま背を向ける。月はあの子の衣の色。僕の衣は夜より暗くて、隣だと余計に暗い。
針先に花が光る。
梅の花びらより白くて細かい。触れた指ですっと融けた。
「それが雪。こうやって降るの」
声と一緒に、白が視界を埋めた。
通り過ぎた後、並んだ影に光が橋を架けた。弧を描いて、幾つも色を含んで、月が被る暈に似ている。
「月虹だわ……綺麗」
「ああ。また持って来てくれるか?」
「自分で行けば良いのに」
「僕は雲海を出られない。舟を降りてはいけない」
「なぜ?誰が決めたの?」
黙った。差し出された手に、渡すべきものが判らない。
「貴方には足があるし、誰も何も禁じていない」
二つの手が重なる。足が舟を離れ、雲海に浮いた。
一繋ぎの影が光の橋を渡った。
円月が舟の高さに浮かび、空はいつもより明るい。糸を掛けたら引き寄せられそうで、腕を伸ばして、届かないのを実感してやめた。
海に竿を垂れたまま背を向ける。月はあの子の衣の色。僕の衣は夜より暗くて、隣だと余計に暗い。
針先に花が光る。
梅の花びらより白くて細かい。触れた指ですっと融けた。
「それが雪。こうやって降るの」
声と一緒に、白が視界を埋めた。
通り過ぎた後、並んだ影に光が橋を架けた。弧を描いて、幾つも色を含んで、月が被る暈に似ている。
「月虹だわ……綺麗」
「ああ。また持って来てくれるか?」
「自分で行けば良いのに」
「僕は雲海を出られない。舟を降りてはいけない」
「なぜ?誰が決めたの?」
黙った。差し出された手に、渡すべきものが判らない。
「貴方には足があるし、誰も何も禁じていない」
二つの手が重なる。足が舟を離れ、雲海に浮いた。
一繋ぎの影が光の橋を渡った。
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公開:20/01/20 18:55
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創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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