天釣舟(あまのつりふね)
18
12
白い海に向かい、竿を垂れる背中がある。
舟上に胡坐をかき、糸の先が没する、うねり揺らめく白を見つめる。――雲海だ。空の海は靄々と凪ぎ、波音ひとつ立てない。見渡す限り青と白に切り分けられた世界へ、ぽつりと滲む船と黒い衣。時折思い出した様に竿を上げては、針に掛かったものを外し、海中へ放る。
手元で不意に火花がはぜ、指を口へ当てた。首をすくめて背中を丸め、また竿を垂れる。
「何を釣るの?」
「雪。見た事がないんだ」
海を向いたまま答え、上げた竿に霧氷が舞う。伸ばした掌をすり抜けて、瞬く間に消えた。
「もっと下。雲の中じゃ、雷や霧しか出ないわ」
やや躊躇って、腕が下がる。知りもしない雪を、どうやって釣るつもりなのか。隣へ降りてみる。特に拒みも、気にする風もない。
――次の針に、白いものがひとひら。
「……雪?」
「梅の花びら」
手を差し出すと、放るのをやめて私に寄越した。
仄かに春の香りがした。
舟上に胡坐をかき、糸の先が没する、うねり揺らめく白を見つめる。――雲海だ。空の海は靄々と凪ぎ、波音ひとつ立てない。見渡す限り青と白に切り分けられた世界へ、ぽつりと滲む船と黒い衣。時折思い出した様に竿を上げては、針に掛かったものを外し、海中へ放る。
手元で不意に火花がはぜ、指を口へ当てた。首をすくめて背中を丸め、また竿を垂れる。
「何を釣るの?」
「雪。見た事がないんだ」
海を向いたまま答え、上げた竿に霧氷が舞う。伸ばした掌をすり抜けて、瞬く間に消えた。
「もっと下。雲の中じゃ、雷や霧しか出ないわ」
やや躊躇って、腕が下がる。知りもしない雪を、どうやって釣るつもりなのか。隣へ降りてみる。特に拒みも、気にする風もない。
――次の針に、白いものがひとひら。
「……雪?」
「梅の花びら」
手を差し出すと、放るのをやめて私に寄越した。
仄かに春の香りがした。
恋愛
公開:20/01/18 23:58
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
ログインするとコメントを投稿できます