青沼静馬の浮き輪

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 扉を開けると、ホームレスのような老人が浮き輪を持って立っていた。
「すみません。浮き輪をお届けにあがりました」
 戦隊のキャラクターが書いてある青い小さな浮き輪。これは小学校2年生の夏、数家族で座間へ行ったときの……。だが、今僕は42歳独身という未来を生きていた。
「覚えがあります。でもなぜ此処へ?」
「あの夏の夜、この置き去りにされた浮き輪の「2-2青沼静馬」というマジックで書かれた名前を見て、『これを届ける人生を生き直そう』と思い、訪ね歩いてきました」
 だが、私は青沼静馬ではなかった。彼は一緒にいった友達の一人だ。私がそう告げると、老人は頬を紅潮させた。
「で、では青沼静馬さんは、今?」
「亡くなりました。この翌年、海で」
 波の音が聞こえた。
 老人は「お墓を(調べましょうか?)」と言い掛けた私の言葉を深いお辞儀で遮ると、浮き輪を畳んで立ち去った。
 私は、座間へ行こうと思った。
その他
公開:20/01/18 09:54

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

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