一冊の私とあなた

6
6

私はこの場所で、ずっと人を待っている。いつ来るとも分からない、私を大切に想ってくれる人をただ待つことしか私にはできない。

「やっと見つけた!」
そう言って私のところへ笑顔で駆け寄ってくる男性を見て、あぁ、ようやく私の運命の人が現れたかと安堵する。
…でも、その手は私の前をすり抜けて、二つ隣の彼女の手を取って幸せそうな顔で去っていった。
愛おしそうに抱きしめられながら彼と去っていく彼女の姿を、私はただ見送ることしか出来ない。

私はまた、長い時間をその場で過ごした。目の前を通り過ぎるたくさんの人を見ながら、運命の人はどんな人かと夢見ながら。

「あ、あった!」
また一人、私の方を見つめながらそう言う人がいた。まだ若い女の子の伸ばした手は、私の顔をそっと撫でると、愛おしそうに手に取って抱きしめてくれた。

「ずっと探してたんだぁ」

あぁ、私の運命の人は貴女だったんだ。
その他
公開:20/01/16 12:17

杏夏

普段は別の場所で二次創作してます。

文字を読むのが好きで、文字で色んな景色を描くことがただただ好きなだけの人間です。
自分の描きたいものが上手く表現出来たり伝わるかはわかりませんが、ちまちまとマイペースにやっていきたいと思います。
あまりラフな世界観を描くことは得意ではないですが、そう言う世界も描けるようになればと思っています。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容