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ひと気のないシャッター通り商店街に一軒だけ営業している豆腐屋がある。祖父の店だ。
絹ごしだった柔和な顔が今は木綿のような祖父。私が幼い頃は近所に三軒の豆腐屋があって、それらをウィンドウショッピングしてまわるのが好きだった。今も残るのは祖父の店だけ。
窓ごしに店内を覗いていると、湯葉でできた窓がこちらに倒れてきて、私の驚いた顔を覆う。それは湯葉写真。祖父の新しいいたずらだ。天井の梁に座って笑う木綿豆腐の祖父。
絹、木綿、ポリエステルとある品書も祖父の遊び心だ。笑っては負け。呆れて帰ろうと思ったけれど、急に足元がリフトのように持ち上がり、傾き、やぶれた窓から店内の釜に落とされた私は、心地よい攪拌と苦味の中で窓ごし豆腐になってゆく。

この週末、商店街のシャッターをすべて開けて、祖父の豆腐を陳列します。私は文房具屋だったブースに飾られる予定です。スプーンを持って遊びに来てください。入場は無料。
公開:20/01/16 10:29
更新:20/01/16 10:48

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