時計

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 漁船が転覆し、男が海で行方不明になった。
 他の乗組員が遺体で見つかる中、その男だけが見つからない。
 男には恋人がいた。
 事故から数日が経ち、周りの人はみな彼女に諦めろと言った。
 彼女は言った。
「彼はどこかできっと生きています。私は待ちます」
 そして懐中時計を出して見せた。
「これは、彼が自分の身代わりにと渡してくれた時計です。見て。まだ動いています。彼が生きている証拠です」
 もう誰も可哀想な彼女に何も言わなかった。

 数十年、経っても彼女は彼を待っていた。
 時計は、ずっと動き続けていた。
 そんなある日、突然彼が戻って来た。
 彼女は泣きながら彼に縋り付いた。
「今までどこにいたの?」
「それがちっとも覚えていないんだ」
 それだけ言うと、彼は急に崩れ落ちた。
 近くには空の玉手箱が転がっている。

 いつの間にか時計は止まり、手入れしてないかのように古びていた。
その他
公開:20/01/16 07:51

堀真潮

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