つきづくし

初めて彼女とデートした時、生バンドに生歌のステージがあるカクテルバーを選んだのは危なかった。おしゃれな方がいいと思って気取ってみたのが失敗だった。

別に厳しいドレスコードがあるわけでもなかったが、彼女はアリスアンドオリビアの花柄ワンピースに黒革のライダースジャケットという弾けた感じ。俺はブルックス ブラザーズのネイビーのブレザーにベージュのチノパンという無難なスタイルだった。

バンドが“Fly Me To The Moon”を演奏し、ショートカットに丸顔の女が歌っている。

その時、彼女が注文したのはムーンライト・セレナーデで、俺にもひとくちすすめてきたのだった。

ヤバい！

耳と口が変身してしまうのをなんとか抑えたその時、彼女が突然お土産だと言って「萩の月」を出してきた。

もうダメだ、限界だと思った。

「がおっ！」

「あらかわいい♪ みゃお」

俺たちは相性がいいようだ。