やっぱり奥手だった

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「まあ、かわいい♪ まるで天使のよう」

ラファエロ描く“システィーナの聖母”のような表情で妻が微笑む。

「あら? おかしいわね。この子、つばさが無いわ。わたしの子なのに。」

彼女は天女だった。羽衣ではなく自分の羽で飛ぶタイプの。そして私はただのニンゲン。偶然のできごとで夫婦になった。

「あなたに似てしまったのかしらね。まあ、でもわたしたちの子供にかわりないし、よしとしましょう」

妻はそう言ったが、私はちょっと気がかりであった。自分の少年時代、いろいろなことが他人よりも遅かったのだ。補助輪無しの自転車に乗れたのも中一の時だったし。

そして15年後。

「パパなんかだいっきらい! こんな家、とっとと出ていってやるから!」

そう罵(ののし)って家を飛び出した娘の背中には、しっかりと羽がはえていた。

私同様、あの子も奥手だったんだな。
ファンタジー
公開:20/01/15 19:00
更新:20/05/20 19:21
259 「つばさの行方」に応募したもの

武蔵の国のオオカミ( ここ、ツイッタランド、タイッツー )

武蔵の国の辺境に棲息する“ひとでなし”のオオカミです。

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