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冬の朝。まだ何も植えられていない畑が延々と続く道を自転車で走っていると、前方の路肩に、きちんとした身なりの老人男性が気を付けの姿勢で立っていた。私が近づいていくと、その老人はタクシーを止めるかのように右手を上げた。私は自転車を大きく蛇行させ、危ういところで衝突を回避したのだが、その際、老人は私を見ていたのではなく私の後方を見ており、そして微笑みながら手を上げたのだと気づいた。
見通しのよい畑の一本道をずっと走っていた私の耳には、後続車の音は聞こえていなかったし、今も聞こえてこない。「あれは、生きている者の表情ではなかった」という感覚に、背筋が凍った矢先、一台のマイクロバスが私を追い抜いて、目前の丁字路を右折していった。
「敬老会ゲートボール倶楽部式典会場行」
私はちょっとつまらない気分になった。
夜、爪を切っていた父にその話をすると、父は「この地区にそんな倶楽部は無いぞ」と言った。
見通しのよい畑の一本道をずっと走っていた私の耳には、後続車の音は聞こえていなかったし、今も聞こえてこない。「あれは、生きている者の表情ではなかった」という感覚に、背筋が凍った矢先、一台のマイクロバスが私を追い抜いて、目前の丁字路を右折していった。
「敬老会ゲートボール倶楽部式典会場行」
私はちょっとつまらない気分になった。
夜、爪を切っていた父にその話をすると、父は「この地区にそんな倶楽部は無いぞ」と言った。
ホラー
公開:20/01/15 09:42
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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