だれもいない部屋
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静かな昼下がり。
男がそっとのぞくと、キッチンではひとりの女がうたた寝をしていた。額にかかる髪に男が手をのばしたとき、物音がした。男は振り返る。奥の部屋からだ。
廊下の奥の部屋には机や本棚があり、窓から花曇りの淡い光がさしこんでいる。だれもいない。
いや、片隅にベビーベッドがあった。
男がのぞきこむと、赤ん坊は目を見開いてまっすぐに男を見かえした。男は驚き、うろたえ、やがて赤ん坊へと手をのばした。赤ん坊はむじゃきにその手を求めている。
だがその期待にはこたえられない。
男には声も肉体もない。こうして見つめることしかできない。
ーー君にあうために急いだあの夜のハイウェイ。雪さえ降っていなければ。
やがて彼女が目をさまし、この部屋にくる。君をそっと抱きあげるだろう。窓をしめようとして、やっと気づくだろう。
窓からすべりこんだうす桃色の花びら。
これしか、できない。
男がそっとのぞくと、キッチンではひとりの女がうたた寝をしていた。額にかかる髪に男が手をのばしたとき、物音がした。男は振り返る。奥の部屋からだ。
廊下の奥の部屋には机や本棚があり、窓から花曇りの淡い光がさしこんでいる。だれもいない。
いや、片隅にベビーベッドがあった。
男がのぞきこむと、赤ん坊は目を見開いてまっすぐに男を見かえした。男は驚き、うろたえ、やがて赤ん坊へと手をのばした。赤ん坊はむじゃきにその手を求めている。
だがその期待にはこたえられない。
男には声も肉体もない。こうして見つめることしかできない。
ーー君にあうために急いだあの夜のハイウェイ。雪さえ降っていなければ。
やがて彼女が目をさまし、この部屋にくる。君をそっと抱きあげるだろう。窓をしめようとして、やっと気づくだろう。
窓からすべりこんだうす桃色の花びら。
これしか、できない。
ファンタジー
公開:20/01/14 20:35
更新:20/01/14 20:36
更新:20/01/14 20:36
再開しました。今までコメントをしてくださった方々、お返事できず失礼しました。
これからもよろしくお願いします。
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