高級革鞄店に出入りする中学生らしき男子

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 ケニアというコーヒーからは革の香りがした。それは私がショッピングモールのカフェの向かいにある高級革鞄店に出入りする中学生らしき男子に目を奪われていたためだ。
 妻から家族召集のLINEが来るまで私は読書をしようとしていたのだが、その少年の様子は活字よりも五感を刺激した。
 少年はリュックを引っ張ったり、バッグの取っ手を掴んで慄いたように竦んだり、トランクの角を叩いてため息をついたりするのだが、その一つ一つの行為の間に、読点でも挟むかのように通路へ出てきては二度頷くので、私もやはり同じように頷いていた。
 少年がまた通路に出てきた。顔がこちら向きになった。掌を嗅いで陶然とするその顔は長男だ、と気づいた時、妻からLINEが来た。当然、少年もスマホを見た。
 私は後ろから息子の肩を叩いた。息子は一瞬体をこわばらせたが、すぐに「親父、どこにいたんだよ」と言った。私は「ずっと本屋にいた」と答えた。
青春
公開:20/01/10 18:23

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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