中耳苑

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「中耳炎ですね。」
そう言うと、医者はパソコンにカルテを書き込み始めた。
その横で、患者である幼稚園生の男の子が母親に聞いた。
「チュージエンって何?」
「ん?あんたが中耳炎だ、って。」
説明になっていない説明をされ、男の子は何も言えなかった。
男の子は祖母の家で見た「広辞苑」という辞書を思い出し、きっと「中耳苑」という意味なんだと思った。
どのページも言葉でびっしりの広辞苑。
強まったり弱まったりする痛み、脳に穴を開けるような耳鳴り、バリケードで耳の奥を塞がれたような閉塞感は、色んな言葉が犇き合ってぶつかり合っているような感覚で、男の子は今の自分の耳の中は正にあの大辞典だと思った。
「分かんない言葉がいっぱいすぎて頭なやんじゃう、あの感じ!」
男の子は知らない言葉を自力で解釈できたことが嬉しくてそう叫んだ。
医者も母親もその例えに何となく引っかかったが、その理由を考えようとはしなかった。
その他
公開:20/01/11 21:22

北瓜 彪

ショートショート講座(2019年7〜9月期)にも参加
しました。
皆様宜しくお願いしますm(_ _)m

※アルファポリス
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/664452356
でも活動しています。SS講座で提出した作品「ファンフラワーに関する見聞」「大自然」もそちらで公開しております。
 

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