ソフトクリーム

　いまは夏だ。空には白い雲がもくもくとしている。まるでヒロカの食べてるソフトクリームってやつみたいに。ああ、ヒロカは僕を飼っているヒトだ。僕とヒロカは2人暮らしなんだよね。1人と1匹かな。


　ヒロカは僕にソフトクリームをくれない。病気になるって。コーヒー牛乳ってやつはたまに舐めさせてくれるのにね。あれは甘くて美味しい。だから僕はヒロカのためにセミとかトカゲとかを捕っては持ってくる。ベランダにたまに来るんだ。これは僕なりのヒロカへのプレゼントだ。でもヒロカは顔をしかめては捨ててしまう。


　夏が過ぎた。秋になった。雪が降り始めた。ヒロカは秋の最後くらいにあっけなく死んだ。交通事故で。


　僕はある施設に保護された。っていうか僕もヒトだった。結局、僕は狂った母のもとに産まれたこどもだったんだ。出生届も出されないままで。国籍も持たないで。ずっと僕は僕をヒト以外の何かだと思っていた。