感傷定規～センチメータリティ

心の傷を測る『定規』が開発され、世の中えらくキチキチしてきた。
複合電磁波を脳に照射し、脳波や記憶、感情回路の損傷、不整、疲労やストレス深度を算出する。いわば精神のＭＲＩだ。自分の心のどの辺に、何センチ何ミリの傷が付いていて、それが回復可能か否か、また全治に掛かる期間など、映像と数値ではっきり示してくれる。心療の現場において、非常に有効であると同時に、ブラックボックスがこじ開けられ、逃げ込む余地が無くなったなんて、拗ねたがりの自傷屋はつい愚痴ってしまう。
トラウマの地層判定も、ストレッサーの特定も容易になり、被害者と加害者の関係はよりシビアだ。ただ今テーブルに差し向かいで、俺が傷付けたらしき女が、診断書を突き付けて賠償請求中。一生残る傷？俺だってあんたのせいで、死んでも埋まりそうにない重傷なんだが。
キューピッドの矢傷まで数値化してどうする。そんなもの、『生涯共に』の一言で済む話だろうに。