青の他人

9
14

「ヒナがかえったよ」
隣のテントで暮らす女が私のテントへやってきて、嬉しそうにそう言った。
扉を開けて河川敷に出ると雲ひとつない空。
「おめでとう」
女が言った。
「私の子じゃないよ」
「当たり前だろ。ほら、明けたんだよ年が」
「そっか」
「いいお天気」
青は人に元気をくれる。初めて女に出会ったときもそんなふうに青空の話をした。
私たちは赤の他人だったけれど、豪雨で家を流されて、同じように夫を亡くした。避難所の生活が耐えられず、この河川敷で暮らしている。互いの生活に干渉しない私たちは、青が好きな青の他人。
もうひとつあるテントには寝たきりの他人がいて、私たちはたまに介護を手伝った。
もうすぐ土に還るその人には渡り鳥の妻がいて、秋頃から夫の鼻の中で卵をあたためていた。
春がきて、夫が軽くなったら、小鳥と共に北へ向かう妻鳥。
私たちは青空の下で繋がっている。友だちという言葉はそうして生まれた。
公開:20/01/06 11:59
更新:20/10/05 09:12

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容