夢餅

正月の特別な餅。その名も夢餅は、つきたてのお餅に自分の夢を練り込んで、さらに一晩中つくと出来上がる。その年に叶いそうな夢はピンクやオレンジなどの暖色系に染まり、叶いそうに無い、もしくはもう少し頑張らないとダメな場合は黒く染まる。手間がかかるからか、最近はどの家でも夢餅を作らなくなった。夢餅の決まりはただ一つ、出来上がったものが何色であっても、残してはならないのだ。
今年の正月、俺は初めて夢餅を作った。夢は嫁をもらうこと。夢餅が何色になるか楽しみにしていたが、次第に腕が疲れてきた。もう餅をつくのはやめようと、ふと夢餅をみるとうっすらピンクに染まり出している。
「おぉ…！」
それから俺は一晩中餅をつき、うっとりするほど綺麗な夢餅を完成させた。
苦いような、甘いような、胸が苦しいような、泣きたくなるような…そんな味がした。美味しいとは言い難い。でも、俺は既にピンクの夢餅の虜になっていた。