風見先生の国語実践主義

　私の家に風変わりな居候がやって来た。
　侍気取りのポニーテールに和装姿の中年男。衣服以外に持参したのは扇子とキセルだけ。どうやら国語の教師らしい。
　ママとパパは私に学校の勉強教えてくれるよ、と面白がっている。私にはただの胡散臭いおじさんにしか見えないのだけど…。
　風見先生は、食卓に現れると「吾輩は、国語実践主義者です。どうぞ皆様お気になさらず」と言って、朝食の鮭の載った皿を持ち、高々と頭上に掲げた。口をすぼめて息を吸い、瞼を閉じると、先生は厳かに宣言する。
「頂きます」
　それから先生は黙々と箸を動かし、朝食を米粒一つ残さずに平らげると、今度は無言で立ち上がって、廊下に飛び出しかと思うと、ぐるっと家の中を全速力で駆けて戻ってきた。
「……御馳走様！」
　先生は息をぜいぜい言わせると、その場に卒倒した。
　どうやら風見先生は運動不足みたい。
　この人、大丈夫かなぁ、と私は思った。