Bさんの場合

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遅延した電車の中でおじさんが優先座席の若者を怒鳴って立たせていた。若者は別の車両に移っていった。すこし足をひきづっているようにも見えた。

ひと月前に戦争が始まり、上司が朝礼で「私たちにできることは生産性を高めてすこしでも多く納税することこれすなわち後方支援であります」というので同僚に「どうしろって?」と訊くと「同じよ、今までと」と答えられ、そのとき私は私自身がなにか戦争に淡く期待していることに気がついたが、どうするでもなかった。

また自爆テロかよ、死にたいやつは他で死ねという声が聞こえた。若者を立たせたおじさんだった。
電車はなかなか動かなかった。人が次々に乗ってきて、私は奥へと流された。痴漢されている子が見えた。さっきのおじさんが触っていた。
もし私に銃があればいま撃つのに。そう思いながら、私は自分がいまなにをしているのかよくわからなかった。それがいつからなのかも。
ただ眺めていた。
公開:20/01/05 02:52
更新:20/01/05 09:38
戦争について

Morisaki( 大阪ー東京ー大阪 )

たまに書きます。

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