Fさんの場合

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朝起きると戦争が始まっていた。私もいかなければならないらしかった。
満員電車に乗って砂漠を二日間進んだ。意外と平気だった。普段からこの時のために慣らされていたのだと思った。

基地に着いて最初の仕事は捕虜の世話だった。彼らは豚肉が食べられないらしく、意地悪く食事に混入したりする者もあったが、彼らはなにも言わずに平らげた。一人が言った。
「自分の嫌いな物の味もわからねえなんてな」

彼らは時折狂ったように虚空に向かって祈った。
神の軍隊、と彼らは彼らのことを呼んだ。平和維持軍、と私たちは私たちのことを呼んでいた。

4月に私は前線に送られた。彼らが断食に入ったために給仕がいらなくなったのだった。

戦闘は、呆気なかった。腹が減っては戦ができぬわ、と上官は笑った。
私は自分がなにをしているのかよくわからなかったが、その感覚がいつからのものなのかもよくわからなかった。
ただ、引鉄を引いていた。
公開:20/01/05 01:21
更新:20/01/05 04:54
戦争について

Morisaki( 大阪ー東京ー大阪 )

たまに書きます。

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