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昔好いた男に愛を告白したいと言う彼女の背を押した。
転ぶ彼女に手を差し伸べる彼。
「…様」
「それ…祖父…」
うっかりしていた。
五十年経てば若者も爺になる。彼は彼女に、祖父は入院中で危篤だと、知り合いならと病院の名まで教えてくれた。
教わった病室には萎びた爺が一匹、死にかけていた。
彼女がさめざめと泣く。お慕いしておりました、と。興醒めである。この男は死ぬ気なのだ。なんたる無礼。
彼女がその身を保てぬ程に泣き崩れた時、先程の彼が病室に現れた。彼女を拾い上げ花瓶に差す。
「爺ちゃんの名前で俺を呼ぶ人に会った。あの人…? 爺ちゃんの初恋の…まさかね」
嗚呼、なんという事だろう。彼女の恋が叶ってしまう。我等はもう傍に居る事かなわぬ。彼女は、男と一緒に逝くつもりなのだ。黄泉の案内人として。

1503号室の患者は息を引き取った。急いで家族が呼ばれた。

病室には、花瓶に花が一輪だけ差してあった。
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公開:20/01/02 19:31
更新:20/01/02 19:32

右左上左右右

アイコンは壬生野サルさんに描いて頂きました。ありがたや、ありがたや。

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