正月の客

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寝正月も3日になるとテレビを観ているのが苦痛だ。
我が家はエクアドルの山岳地帯で日本人向けの山小屋を日本家屋で経営している。赤道直下なのに標高が高く、普段は永遠の春と称されるほど恵まれた気候だけれど、今は雨季で今日も雨降り。客など来ない。
居間のこたつに還暦の父と母、それに兄と妹の私が、黒ひげ危機◯発のチープなナイフみたいに寝転んで刺さっている。
去年の客は3人だった。こんな暮らしがいつまでも続くはずがない。こたつの中で汗ばんだ兄の足が超絶に気持ち悪い。もういやだ。私はこの家を出ようと荷造りをはじめた。
「ごめんくださーい」
こんなときに客だ。渋々玄関に出てみると、そこにはカルロスゴーンがいて、妻とボディガードも一緒だ。
前金で受け取った札束が聖徳太子の万札で、私は夢を見ている気持ちになった。
「割と日本が好き」
客間からそんな声が聞こえて、私も割とこの仕事が好きかも、そんな風に思った。
公開:20/01/02 12:43
更新:20/01/02 12:45

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