風遊荘日記

16
9

その男は、アパート『風遊荘(ふゆうそう)』で暮らしていた。
ある日、男のアパートに家主が訪ねてきた。家賃の催促である。
「もう三カ月も遅れてるんですよ。今日こそは払ってください!」
「なんとか、もう少し」
「小説家なんてあきらめて、働きに出たらどうです」
そう言うと男は書き上げた原稿の一つを差し出した。
「これ読んでみてください!絶対面白いですから」
家主は渋々原稿を受け取り帰った。

あくる日、家主は原稿を返しにきた。
「これでは売れないですね」
「……そうですか」
「日記をお書きなさい。一カ月後に取りに来ます。面白ければその月の仮家賃としましょう」
「日記をですか?」
「ただし、書いた著作権は私に一存することにしましょう。つまり毎月の掛け捨て日記です」

ある日、書店の店頭に『風遊荘日記』が並んでいた。
「元出版社の編集部長だったとは……」
「印税から家賃をしっかりいただきますからね」
その他
公開:20/01/03 11:45
更新:20/01/03 22:18
スクー 掛け捨て日記

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。お笑い好きで怪談も好き。
お笑いネタのような作品が多いですね(笑)
【受賞作品】
「渋谷シティ」
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞受賞。
「我が家の食卓」
ベルモニーショートショートコンテスト入賞。
「電車家族」
隕石家族ショートショートコンテスト入賞。
「大男の力自慢大会」
「スカイフィッシング」
空想競技2020ショートショートコンテストW入賞。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容