さかなびとの命

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 やけに匂うのは、きっと私が生まれ変わる手前にあるから。

 魚と人の間に生まれた。
 15の歳までを湿った鱗の肌で生き、海水を浴びながら学校に通った。滑らかな皆の肌が羨ましかった。
「人魚姫という話があるのよ」と友達は励ましてくれるけれど、そんな美しいものになれないことはわかっている。それでもせめて顔面の鱗が消えないかとか、水を滴らせて歩くことから解放されないかとか望みを抱いていた。
 それがある日、己の身体から腐臭が漂うのに気付いた。
「それは変化の匂いよ」と母は言う。「お前の望む姿になれる」と父は言う。
 そうであればいい。優しい皆の言葉の通りであればいい。
 ……けれどこれは死臭。魚と人の混血児は永く生きることは出来ない。成長し大人になることを夢見て――だけどそれは叶わない。
 魚になれたら良かった。人になれたら良かった。
 ただ腐り死に向かいゆくだけの命であるのが、悲しかった。 
ファンタジー
公開:19/12/31 21:54

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