除夜の鐘を鳴らす紳士

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大晦日。
23:45。
寺で最初の鐘が鳴らされた。
人々の白い息とともに厳かな鐘の音が夜闇に吸い込まれていく。
合掌。
煩悩が祓われていくのを感じる。
その中に一人、ジャケットを脱いでワイシャツを腕まくりしている紳士がいた。
彼は頭に鉢巻を巻くと、立入禁止ロープを跨いで、鐘楼に近づいていく。
その姿に気付いた僧の一人が叫んだ。
「みんな、逃げろ!」
僧達は彼を見るなり蜘蛛の子を散らすように鐘楼から離れた。
屈んで耳を塞ぐ。
「くるぞ!」
紳士は鐘付き棒の紐を握っていた。
「うおぉぉおおおおお!!」
ゴオォオオオン!!!
轟音というよりも地響きが起きて、みんなの体が少し浮き上がった。
紳士が立ち去った後、人々は呆気にとられた。
「あれ、肩凝りがきえた?」
「私も腰痛がきえた」
「ママ、私目が見える!」
「数学のミレニアム問題が解けたぞ!」
「なぜか知らんが、禿がなおったぁ!」
良いお年を!
その他
公開:19/12/31 21:07
大晦日 除夜の鐘 例の紳士

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

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