赤糸青鳥(せきしせいちょう)

15
9

「規則です。お許しを」
係の老人が私の手を見て眉を顰めた。帽子の下で何か唱えると、薬指から指輪が消えた。
溜め息の隙を突き、左手を袖に隠す。渡り待ちに並ぶ間、先の渡河人を観察した。棺に抱いた形見を未練落としに奪われ、俯く女達が、川岸に白い列を引く。
亡き母のくれた指輪。『お前は護れる様に』と右手に填めて逝った。袖の上から指を押さえた。

「待ちなさい」
先頭へ来て止められた。反射的に身体をよじる。
「結びの契りを交わさぬ女に、三瀬川は渡れません」
列は気の毒げに私を避け、漕ぎ付いた船に収まっていく。喜び合う男女を余所に拳を握った。
憶えてくれていると思った。迎えに来てくれると思った。
私の独り決めだったのか。

「俺の連れです」
同じ岸から、凛と声が通る。
歩み寄る幼馴染の、別れたままの姿で、待ち侘びた風に私の左手を取った。
半世紀ぶりの指切りが、二つに切れた小指の糸を、固く結び合わせた。
ファンタジー
公開:19/12/31 20:13
三瀬川(三途の川) 女性の渡河の言い伝えより

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容