誕生会

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とある家の庭先から賑やかな声がした。塀越しに覗くと、住人らしき老人と目が合った。
「やぁお兄さん、寄っていきませんか」
外回りで歩き疲れていた俺は、招かれるまま敷地に足を踏み入れた。料理が並ぶテーブルを囲んで皆が楽しそうに過ごしていた。
「今日は妻の誕生会なんです」用意された小さな花束を縁側に腰掛ける老女に手渡すと、彼女は見知らぬ俺に満面の笑みを向けた。
「素敵な誕生日ですね」と言うと、老人は「いやぁ」と少し口ごもった。「実は妻の誕生日は今日じゃないんですよ」
「徐々に記憶を無くしていましてね、でも誕生日が特別な日だということは覚えているんですよ。そこで時々こうしてご近所さんと誕生会を開いています」
なるほど、ここには祝福の声と笑顔があふれ、 花に囲まれた老女は少女のように笑っていた。
「いつまでこうしていたくてね」妻のシワだらけの手を撫でながら老人は言った。「毎日が大切な記念日なんです」
その他
公開:19/12/31 19:09

ケイ( 長野 )

ショートストーリー、短編小説を書いています。
noteでも作品紹介しています。​​
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テーマは「本」と「旅」です。

2019年3月、ショートショートコンテスト「家族」に応募した『身寄り』がベルモニー賞を受賞しました。(旧名義)
2019年12月、渋谷TSUTAYAショートショートコンテストに応募した『スミレ』が優秀賞を受賞しました。
2020年3月、ショートショートコンテスト「節目」に応募した『誕生会』がベルモニー賞を受賞しました。

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