風船

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 ひとつの世界のおしまいは、あでやかな風船が弾ける音だった。
 わたしの世界のなかで、風船とはしあわせの象徴だ。ふんわりと浮かんでは、いづれ、ぱつんと悲鳴をあげて、なんにもなくなってしまう。それでも、あか、き、あお、みどり。色とりどりの風船がわたしたちに微笑んでくださる日和は、うんとうつくしい。
 まだ、数えられるくらいの、何個目かの風船が無くなったのは、さっちゃんとおててをつないでいられた、小学二年生の頃だった。
 あの頃のわたしには、いまよりもたくさん風船が見えた。やさしい言葉に、あたたかい微笑み。たのしい帰り道、うれしい歩道橋。何処にでも、万年草のように風船が咲いていて、あしたの風船のいろも、うつくしめる日々だった。
 教室の隅に、夕焼けの在り処を見つけた日。どうしてか、階段の踊り場の窓辺で、たくさんの風船がぱちんと弾けて、いなくなった。あれがわたしの、ひとつのおしまいだ。
青春
公開:19/12/31 16:55
更新:19/12/31 16:59

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