夢の終わり

0
2

「僕のこと、覚えてる?」
 そう問われ、青年はしばらく逡巡した後、ゆっくりと首を横に振った。男の子は寂しそうに、そっかと短く呟いて俯いた。
「僕は君の夢だよ。かつては君も未来を夢見る少年だったね。でも君はいつの頃からか、僕のことを忘れてしまった。思い出して欲しかったけれど、それはもう叶わないみたいだ。」
 少年の青いガラス玉の双眸に、青年の右手に握られた拳銃が黒々と映り込んでいる。少年の声は、もう青年には届いていない。やがて銃口は青年の口の中にするりと飲み込まれてしまった。少年はゆっくりと目を伏せ、胸の前で両手を組んだ。
「おやすみなさい、せめて良い夢が見られますように。」
 ある街の、静かな冬の夜。一発の銃声が鳴り響いた。しかしそれに気付いた者は一人もいない。ただ路地裏で痩せ細った黒猫が目を覚ましたが、興味なさげに欠伸を零しただけだった。
その他
公開:19/12/31 16:48
更新:19/12/31 16:49

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容