花は寄り添う

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 好きな人のくれた種を大事に育てた。
 あの人が育ててほしいと託してくれた花だから、恋しく想うどんな時でもそばにありたいと持ち歩くことにした。
 切り花では命が短い。土ごと運ぶことにしようと思い、パーカーのフードに入れた。散歩に出てもどこに行こうとも、振り向けばすぐそこに花を感じられる。まるであの人と共に出掛けているよう。
「強く濃い色の夕日ですね」
「噴水の水しぶきが綺麗ですね」
 話しかけて振り向けば花は可憐に揺れる。嬉しくなってどこまでも共に歩いた。
「一緒に行きましょうね。ずっとどこまでも行きましょうね」
 ……想いはもうあの人には届けられない。泣きながら語りかけ歩き続けた。
 春の風の中、夏の日差しの元で花は健気に揺れる。秋になっても冬になっても枯れぬ命に喜びながらも不思議を感じ、不意に、この花は――と気づいた。

「……もうずっと一緒に、あなたは僕のそばにいて下さったのですね」
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公開:19/12/31 22:58

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