プリンセス・バスタイムⅤ

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今夜が最後だって、逢う前から判ってた。
納得してたわけじゃないけど、それはお互い様ね。もっと良いパートナーを見付けたから、関係を解消したい、つまりそういう事でしょう。好きなお酒に手を付けないのも、ちらちら時計に目をやるのも、私の話に生返事しか返さないのも、ベッドの上じゃなくて、ドアに近いソファに腰を下ろしたきりなのも、退場のタイミングを計ってたからなんでしょう?
「お風呂、先に入るわね」
上がる前に消えるなら、仕方ないと思った。
『プリンセス・バスタイム』って入浴剤、貴方は知らないでしょう。絵空事が嫌いな人だから。ラストダンスに掛けて、美女と野獣のバスソルト。金色の波紋が広がる度、シャンデリアの下、最初に踊った曲を思い出した。ドレスの裾を翻し、翻し――

むしろ赤ずきんみたい。
ドアを開けると、貴方の息遣いが粗い。賭けはどうやら、私の勝ちね。
低い唸りを上げた口から、長く尖った牙が覗いた。
ファンタジー
公開:19/12/30 18:07

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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