心湯たんぽ

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 雪降る夜だった。
「また家出してきたんね。ほら、湯たんぽ」
 祖母は私が泣く時はいつも湯たんぽを胸に抱かせる。昔と違って今は電気で温かくなるのが嬉しいそうで、横顔は自慢気だった。「空腹と寒いのはあかんよ」が口癖で、コンセントに繋がれた湯たんぽが、いつか私と家族とを繋ぐと信じていたのかもしれない。

 祖母の三回忌の後、私はすぐに職場に戻った。1年前に開店した美容室。カットのお客様に充電式の湯たんぽをお渡しする。
「やわらかい!生きてるみたい」
 ぷにぷにとした感触が評判で、20分の充電で8時間温かい。私は店の裏で出産を控えた野良猫を想った。閉店後、タオルと湯たんぽを駐車場の隅に置く。今夜は雪が積もる。頑張れよ、と祈ると、みゃお、という返事。携帯が鳴った。
「今夜は冷えるけん……夕飯、家で食わんか」
 コードレスの湯たんぽを手で撫でる。
「うん」
 それが、今晩は心にまで沁みる。
その他
公開:19/12/29 15:02

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