誰よりも綺麗な手を取って、僕が言ったこと

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 新品のランドセルを初めて背負うと、期待に胸が膨らんだ。桜の花弁が舞う校門前で、そっと肩に置かれた手が、少しだけ大きくなった自分を讃えているようで誇らしかった。

 新しい兄弟が誕生して、いつも一番に向けられていたはずの温もりは遠退いた。堪らず拗ねて部屋の隅で丸まっていると、眠る小さな弟と一緒に、優しく後ろから抱き締められる。やっぱり温かい温度に、苛んでいた気持ちはどこかへ消えた。

 新調したスーツに身を包み、面接に臨む背中をその手は強く叩いてきた。緊張していた気持ちが解れ、勇気を貰って歩き出せた。

 あの頃の細く整った手とは違う、窶れて血管が浮き出た手を掴む。これまで自分が迎えた様々な人生の節目に、この手が側にいてくれた。

「俺、母さんに紹介したい人がいるんだ」

 病室のベッドの上に起き上がっていた母は、幼い頃から変わらぬ穏やかな雰囲気のまま、皺が多く刻まれた口元を綻ばせた。
 
その他
公開:19/12/30 10:27

ユシキ

 素敵な文章に触れあいつつ、自分も自分の言の葉を、ひっそりと綴ってみたいです。

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