ありすきゅうでん

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庫裏の勝手口に豆腐屋の堀さんがいた。
「奥さん、愛してるんです」
「うそーん」
話を聞くと、堀さんはこの寺に棲む女王蟻を愛してしまい、寺の庭に蟻の宮殿を築きたいと言う。
「煮凝りを積みます」
「無茶よ。崩れるわ」
「豆腐は作れます。一緒です」
住職の夫に助言を求めると、「一度なめしたらもう駄目かな」と言って、私のバッグと財布と袱紗の鮫革3点セットを鍋で煮込み始めた。もう、いくら仏道に入っても、男ってやっぱり男。
それから毎日、堀さんは煮凝りを庭に積んだ。5年で立派な宮殿になり、10年で本堂よりも大きくなった。やがて女王が死に、堀さんが寺の本尊になると、今度は夫と私で煮凝りを積んだ。宮殿はどんどん大きく、美しく、旨味を増した。
私は煮凝りになりながら、ぼんやりと夫の声を聞く。──そう、感謝してよね。
ずっと辛かったけど、あなたの煮凝りが美味しいから、やっぱり愛してる気がして。
「幸せだった」
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公開:19/12/30 00:39
『シュヴァルの理想宮』を観て 堀部未知さんオマージュ

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