「すきま」

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見るからに悩める乙女がいた。とても可愛らしい。私はこういう場に遭遇すると、どうしても放っておけない性分なのだ。
「どうしました、お嬢さん」
私は怪しまれないように、素敵なおじさま風を装い声を掛けた。それが大きな間違いだった。
その日から私は幻聴に悩まされる事となったのだ。いや、これは幻聴ではない。悪夢だ。

「すきすきすきすきすきすきすきすきすきすき」

あぁ、また始まった。耳栓をしていても意味がない。私は鏡を覗く。右耳と左耳に一つずつの唇。一つは「す」の形。もう一つは「き」だ。
その二つの唇が、耳栓のわずかな隙間から声を吹き込んでくる。「すき」の波状攻撃。すき魔め。

「きすきすきすきすきすきすきすきすきすきす」

なるべく声を聞かぬようにするも、少し隙を見せると最後。「すき」の連呼が「きす」に変わる。
こうなってしまうと、もうお手上げだ。唇によるチュッチュッ攻撃には抗えない。きす魔め。
ホラー
公開:19/12/29 21:00

壬生乃サル

まったり。

2022年…3本
2021年…12本
2020年…63本
2019年…219本
2018年…320本 (5/13~)

壬生乃サル(MiBU NO SARU)
Twitter(@saru_of_32)

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